今回のテーマは、腰痛とは?です。
まずはじめに腰痛とは何か
日本整形外科学会によると、
「腰痛とは、腰部に感じる痛みまたは重だるい不快感で、急性、亜急性、慢性のいずれの経過でも現れる状態を指す。」とあります。
日本人が一生のうちに腰痛を経験する割合(生涯有病率)は 約80% とされています。
1年間に腰痛を経験する日本人の割合は、約30~40% とされており、特に働き盛りの世代(30~50代)で多くみられます。
男性と女性で大きな差はないものの、妊娠や出産を経験する女性は特定の時期に腰痛リスクが高まり、加齢とともに腰痛を訴える人の割合が増加します。特に60歳以上では、腰椎変性疾患(椎間板変性や腰椎すべり症など)が原因となるケースが多くなります。
日本人の中で、慢性腰痛(3か月以上続く腰痛)を抱える人は 約10~15% とされており、この割合は加齢や職業的ストレスによって上昇する傾向があります。
腰痛は社会的影響もあり、腰痛は日本の労働損失の主な原因の1つであり、労災請求件数の約60% が腰痛に関連しており、腰痛による医療費は増加傾向にあり、特に高齢化社会では社会的負担が懸念されています。
出典: 厚生労働省「国民生活基礎調査」および「健康日本21」、「日本整形外科学会」の調査、「日本腰痛学会」の報告
そして、腰痛は原因や期間によって分類されることがあります。
1. 原因による分類
- 特異的腰痛: 原因が明確なもの(例: 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、骨折、腫瘍、感染症など)。
- 非特異的腰痛: 明確な原因が特定できないもの(約85%がこれに該当)。
2. 期間による分類
- 急性腰痛: 発症から4週間以内のもの(例: 筋肉の捻挫や一時的な負荷によるもの)。
- 亜急性腰痛: 発症から4~12週間のもの。
- 慢性腰痛: 発症から12週間以上続くもの。
3. 痛みの特性による分類
- 局所的な痛み: 腰部のみで感じる痛み。
- 放散痛: 腰部から臀部や下肢へ広がる痛み。
- 関連痛: 内臓やその他の部位からの関連で腰に感じる痛み。
腰痛の定義は幅広いですが、特定の病因がある場合とない場合で対応が大きく異なるため、正確な診断が重要と言えます。特異的腰痛に関しては医師の分野ですのでトレーナーが勝手に判断をする事はできません。必ず医療機関を受診しましょう。
非特異的腰痛の約85%に関しては、トレーナーが関与することも可能だと考えられます。
しかし、明確な原因が特定できないので評価していく必要があります。
評価方法として、以下に主な評価方法があります。
1. 問診
患者の主観的な情報を集める重要なステップです。
内容:
- 痛みの場所: 腰部のどの位置に痛みがあるか(片側、両側、特定の部位)。
- 痛みの性質: 鋭い痛み、鈍い痛み、しびれを伴うなど。
- 発症状況: いつから痛みが始まったか(急性、慢性)。
- 誘因と軽減因子: 動作、姿勢、休息などによって痛みが増減するか。
- 関連症状: 下肢の痛みやしびれ、発熱、体重減少など。
- 既往歴: 過去の腰痛や関連疾患(ヘルニア、骨粗鬆症など)。
2. 身体診察
主な検査項目:
- 視診: 姿勢や腰部の外観(腫れ、変形、左右非対称など)。
- 触診: 痛みの部位を特定し、筋肉や骨の異常を確認。
- 可動域テスト: 前屈、後屈、側屈、回旋などの動作で痛みの有無を評価。
- 筋力検査: 腰部周辺や下肢の筋力低下を確認。
- 神経学的評価:
- 下肢の感覚異常、筋力低下、腱反射の異常(例: 直立状態でのラセーグ徴候)。
3. 痛みのスコアリング
一般的な評価尺度:
- VAS(Visual Analog Scale): 痛みを0~10のスケールで評価。
- 0 = 痛みなし、10 = 想像しうる最悪の痛み。
- NRS(Numerical Rating Scale): 数値で痛みの強さを患者に報告してもらう。
- ODI(Oswestry Disability Index): 腰痛が日常生活に与える影響を評価する質問票。
- Roland-Morris Disability Questionnaire: 腰痛の影響を簡易に測定するためのアンケート。
4. 画像診断
使用される主な検査:
- X線: 骨折や骨の変形(すべり症など)の有無を確認。
- MRI: 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、神経根の圧迫などの軟部組織の評価。
- CT: 骨構造の詳細な評価。
- 超音波: 筋肉や靭帯の損傷を確認。
5. 機能評価
- 歩行テスト: 歩行時の姿勢や下肢の機能を評価。
- バランステスト: 重心の移動やバランス能力を確認。
- リフトテスト: 荷物を持ち上げる動作での腰部負担を評価。
6. 精密検査
特定の疾患が疑われる場合、以下の検査が行われることがあります。
- 血液検査: 炎症マーカー(CRP、ESR)や感染症の有無を確認。
- 骨密度検査: 骨粗鬆症の評価。
7. 心理的評価
慢性腰痛では心理的要因が痛みを悪化させることがあり、以下の評価を行うことがあります。
- ストレスチェック: 不安や抑うつ状態の有無を確認。
- 痛みの認知行動評価: 痛みに対する患者の認識や態度を分析。
8. 特殊テスト
原因を特定するために用いられるものです。
- ラセーグ徴候: 下肢を持ち上げた際の痛みを確認(坐骨神経痛の可能性)。
- FABERテスト: 股関節や仙腸関節の異常を評価。
評価の総合的な活用
これらの情報を総合的に分析し、以下を特定します。
- 痛みの原因(特異的か非特異的か)。
- 腰痛が日常生活や仕事に及ぼす影響。
- 治療方針の決定(保存療法 vs 外科的治療)。
腰痛の評価には、一人ひとりに合ったアプローチが必要で、痛みが長引く場合や日常生活に支障をきたす場合は、医師や理学療法士に相談することが推奨されます。
機能評価の具体的な方法として
1. 歩行テスト
方法
- 患者に通常歩行、つま先歩き、かかと歩きを行わせ、姿勢やバランスを観察します。
評価項目
- 歩行の安定性
- 歩幅の左右差
- 痛みが出るタイミングや部位
意義
2. 体幹可動域テスト
方法
- 前屈: 患者に前屈させ、指先が床に届くかを確認します。
- 後屈: 腰を反らせて痛みや可動域を評価します。
- 側屈: 左右に体を傾けて、左右差や痛みを確認します。
- 回旋: 腰を回転させた際の可動域と痛みを確認します。
評価項目
意義
- 筋肉の硬直や関節の制限、腰部の運動制御能力を評価します。
3. 筋力評価
方法
- ブリッジテスト: 仰向けで両膝を立て、腰を持ち上げる動作をさせる。
- 下肢挙上テスト: 仰向けで片脚ずつ上げさせる。
- スクワットテスト: 体重負荷をかけながら下半身の筋力を評価。
評価項目
- 腹筋、背筋、臀筋、下肢筋の筋力バランス。
- 筋力低下や左右差。
意義
- 筋肉の弱化や非対称性が腰痛の原因となる場合があります。
4. バランステスト
方法
- 片足立ちテスト: 両手を腰に当てて片足で10秒間立つ。
- スターティングポジションテスト: 前屈や後屈でバランスを保てるか確認。
評価項目
- バランス能力の左右差。
- バランス崩れ時の腰部負荷の有無。
意義
5. 動作観察テスト
方法
- リフトテスト: 箱や荷物を持ち上げる動作を再現。
- 椅子立ち上がりテスト: 椅子から立ち上がる際の動作を観察。
- 日常生活動作(ADL)の観察: 歩行、立ち上がり、しゃがみ込みなどを実施。
評価項目
- 痛みが出る特定の動作。
- 動作のスムーズさと左右差。
意義
6. 筋持久力テスト
方法
- プランクテスト: 前腕をついて体を一直線に保つ姿勢で持続時間を測定。
- サイドプランクテスト: 体側を持ち上げる姿勢で持続時間を測定。
評価項目
- 筋持久力(体幹や腰周りの筋肉)。
- 痛みが発生するタイミング。
意義
7. 柔軟性テスト
方法
- ハムストリング柔軟性テスト: 仰向けで片脚を上げ、太ももの裏の柔軟性を評価。
- 前屈テスト: 立位で前屈し、指先が床に届くかを確認。
評価項目
意義
- 筋肉の硬直や柔軟性の低下が腰痛に影響しているかを確認。
8. 筋骨格系の動作連鎖評価
方法
- スクワットやランジを行わせて、全身の動作連鎖を観察。
評価項目
- 股関節、膝、足首の動きと腰部への影響。
- 姿勢の崩れや負荷分散のパターン。
意義
腰痛の評価に用いられる特殊テストの具体的方法